古文書との出合いは高校時代。所属する歴史研究部で先輩と古文書班をつくった。虫食いの跡、染み、ミミズが這ったような崩し字。見ているだけで江戸時代にタイムスリップしたかのようでわくわくした▼少しずつ解読できるようになると内容の面白さに引かれた。240年ほど前の天明の飢饉に関する上伊那の古文書は印象に残っている。凶作で食べ物がなく、家財道具も売り払って命をつないできたものの、もう打つ手がない―。役所に救いを求めた文書からは、当時の人々の悲鳴が聞こえるようだった▼伊那市教育委員会が主催する初の「古文書解読コンテスト」が始まった。家の建て替えなどを機に処分されがちな古文書に光を当てるユニークな取り組みだ。同市高遠町図書館が所蔵する古文書をインターネット上に公開し、現代の文字に直してもらう▼国内に億単位の古文書があっても解読できる専門家は少ないそうだ。経験では、くせ字は辞典を参考にしてもなかなか読めない。ここは「習うより慣れろ」。根気よく続けるうちに、くせも分かるようになってくる。今は解読の人工知能(AI)も開発されているけれど、完璧ではないらしい▼かつて暮らした昭和初期のアパートで、ふすまの下張りに古文書が使われていたのを思い出す。歴史的な価値を見い出さなければ、ただの紙。見方を変えれば先人の息遣いまで伝わる貴重な史料でもある。
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