「見送り」より「空振り」を-。野球の話ではない。防災の話である。避難指示など難しい判断が求められるトップの心得とされる。災害の予測は難しく、地震であればなおさらだ▼8月に宮崎県で起きた最大震度6弱の地震を受けて南海トラフ地震臨時情報が発表された。スーパーやホームセンターでは防災グッズや非常食が品薄状態に。結局、大地震は起こらなかったが、災害への備えは決して無駄ではなかったはず▼一方で、防災の専門家の国崎信江さんは4日に伊那市で開いた防災講演会で「日本では科学的根拠がない常識によって防災教育が遅れている」とし、地震が来たら机の下に潜ることや防災袋を挙げた。まったく無意味とは言わないまでも従来の常識に疑問を呈し、冷や水を浴びせられる思いだった▼国崎さんによれば、たまたま助かった人の証言が独り歩きしているだけで耐震性が低い住宅では命は守れないとし、まずは住宅の耐震化を訴えた。旧耐震基準の住宅はもちろん、新耐震基準で建てられた住宅も地盤によっては倒壊するおそれがあるという▼耐震化にはお金がかかる。行政も補助金を出して後押ししているが、なかなか進まない現状がある。工事は面倒だし、いつ起きるか分からない地震のためにお金を使うことにはためらいもある。結果的に”空振り”に終わったとしても「何もなくてよかった」。そんな風に思えたらいい。
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