「もう生き尽くした気がするの」と50の年を越えた彼女は独り言のようにつぶやく。二十数余年、いとおしんできた子どもたちが社会に出て結婚もし、自立を見送ったら心が空っぽになってしまった▼結婚を機に夫の頼みで仕事を辞め、家を守り続けた。家族を養うために毎日懸命に働く夫、家族が心地よく過ごせるようにと、掃除なら蛇口周りに水跡一滴も残さない家事の徹底ぶり。職場で疲弊した夫を慰め、八つ当たりに挙げる手から子どもを守った時もある▼自分でお金を稼げない│そんな負い目をずっと抱えている。年を取るとともに体の不調も増えたし、若い頃のように右から左へとテキパキと動くことも難しくなった。誰しも悩む中年太りを「楽しているせいだ」と言われたら、もうどこにも身の置きどころがない▼米国でこんな人材募集があった。「役職は現場総監督。交渉力と交際力、医学に金融学、栄養学も必要です。仕事は流動的でほぼ全て立ちっぱなし。勤務時間は週7日、24時間」。受験者は「非人道的」と困惑するも面接官は追い討ちを掛ける。「給料は0です」▼高度で、おまけに「ブラック企業」のらく印間違いなしだ。誰かに評価され、褒めたたえられることもなく、やって当たり前、やらなければ立ちゆかない│そんな職務に好んで就くかと問われたら難しい。今日も休まず家庭で立ち働く人の偉大さに心を込めて感謝。
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