伊那市と山梨県北杜市をまたぐ赤石山脈の駒ケ岳(2967メートル)は1816年、山岳信仰を目的に現在の茅野市出身の小尾権三郎が開山したとされる。権三郎は12歳で高島藩家老宅での3年間の奉公を経て、武士への勧めを断り、山野で霊験を得るために修行する修験者となる▼その後、18歳で駒ケ岳の開山を志し、山梨側から山頂を目指して開山苦行に入った。飢えに耐え、幾度も倒れながら経を唱えて藪を切り開き、入山から3年余、21歳の1816年旧暦6月15日に頂上に立ち「御来光をひざまずいて拝した」(駒ケ嶽開山記)▼信仰が盛んになると、麓の村では寄進者の名が刻まれた石仏が増えていく状況に対して、後の山の所有権争いを憂慮し、参拝登山の禁止を役所に嘆願し受理される。信仰に懸ける人々は嘆き、伊那側の有力者に登頂を掛け合い、1824年に開山を果たす(裏山開山略記)▼今年は伊那側からの開山200周年。先月28日、記念事業で行った山頂にある山名看板の更新作業に同行した。山頂には石の祠や石塔が祭られ、眼下には200年前の登山道跡も見られ、信仰への強い思いを感じた▼山頂には伊那谷で親しまれる「東駒ケ岳」と山梨側の呼称「甲斐駒ケ岳」の看板2枚が取り付けられた。夏でも山肌を白く輝かせる花崗岩の美しい頂。取り付け作業を眺めながら、人々に愛される山の歴史に立ち会えた幸運に感謝した。
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