2024年9月4日付

2024/09/04 08:00
八面観

下伊那郡阿智村にある、満蒙開拓平和記念館を何度か訪れている。開拓団に参加し、戦後帰国した祖父母の足跡をたどりたい思いからだ。あまりに凄惨だったのだろう。祖父母は生前、当時の様子をほとんど話してくれなかった▼79年ぶりの景色は、その目にどう映ったのか。戦時下の旧満州で細菌兵器の実験などに関わったとされる日本の関東軍防疫給水部(731部隊)に所属していた元少年隊員、清水英男さん(94)=宮田村=が先月、中国黒竜江省ハルビン市郊外にある部隊跡地を訪れた▼清水さんは1945年3月入隊。勤務内容を知らされず病原菌について学んだ。体をばらばらにされた親子のホルマリン漬けなどが並ぶ標本室も目にした。固く口止めされ、戦後は家族にも部隊のことは話さなかった。しかし「戦争だけは二度と起こしてはいけない」との思いから、2016年から各地で証言を重ねている▼戦後初めて訪れた施設跡地。実験室や監獄棟、ボイラー棟などが残る。標本室で受けた衝撃は消えない。「犠牲者は許してくれるわけがない」と思いながら、謝罪の念とともに慰霊碑に手を合わせた▼帰国後、戦争について「どうして仲良くできないのか。そればかり考えている」と言葉を詰まらせた清水さん。戦争は当時14歳の少年を、こんなにも苦しめ続ける。平和の尊さを知る戦争体験者の貴重な声を大切に、後世へと引き継ぎたい。

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