2024年8月28日付

2024/08/28 08:00
八面観

戦争が終わって、79回目の夏が過ぎようとしている。本紙上伊那版で戦争遺構を紹介させていただいた。飛行兵の訓練が行われた旧陸軍伊那飛行場(伊那市)、秘密戦兵器を開発・研究した旧陸軍登戸研究所(宮田村、駒ケ根市など)、徴兵検査や軍服製造が行われ、戦後はGHQが滞在した旧上伊那図書館(伊那市)…。戦争という時代の波は東西のアルプスを乗り越えて伊那谷にも押し寄せた▼伊那飛行場や登戸研究所の存在は戦後、高校生の聞き取り調査で浮き彫りになった。地域の人々が立ち上がり、埋もれた史実を記録、保存する活動を続けている。10月には、駒ケ根市民俗資料館内に「登戸研究所平和資料館」が開設される▼盆休みに改めて亡き祖父の戦争体験を母に尋ねた。北安曇郡社村(現大町市)の貧しい農民であった祖父は30歳の時に海軍に招集され、終戦までの1年間、横須賀で甲板掃除や炊事に携わった▼祖父は生前、「貴様らの命は一銭五厘だ。代わりはいくらでもいる」と見下す上官の言葉が悔しかったと母に嘆き伝えた。戦時中の郵便料金になぞらえた表現で、人間の命は当時、それほど軽く扱われた▼戦後の祖父は農民として慎ましく生き、80年の人生を全うした。生まれるのが10年遅ければ戦闘に加わり、20年早ければ子どもを戦地に送り出したかもしれない。人の世は、はかない。戦争の残酷さを改めて考えさせられた。

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