忘れられない映画がある。小学生の頃に母と2人で見た「千羽づる」(1989年、共同映画)。原作は手島悠介さんの児童書。2歳の時に広島で被爆し、その後白血病に侵され、12歳で生涯を閉じた少女の実話である▼少女の名は佐々木禎子さん。足が速く活発な小学6年生だ。ある日、検査で白血病(原爆症)が発覚。両親は病名を隠したが、こっそり見たカルテから自身の病状を知る。絶望の淵で生きる希望をつないだのが折り鶴の制作だった。「千羽折れば、きっと治る」と▼折った鶴は千を超えたが、願いは届かなかった。進学先の中学校にも通えなかった。スクリーンの中で、同世代の少女が命をむしばまれていく姿。単に「悲しい」とは違う胸の締め付けを感じた。初めての感覚だったと思う。小学生ながらに戦争と死に向き合った▼先月、原水爆禁止諏訪市協議会が同市役所ロビーで開いた「サダコと折り鶴ポスター展」に伺った。入院前の元気な姿から、8カ月間にわたる闘病生活の痛ましい様子まで…。映画の記憶がありありとよみがえる。改めて少女のはかない一生をたどり、反戦を思う▼入院中の佐々木さんと同室だった女性が、原作書の中で語っている。「私たちは禎子さんの死を生きているのです。禎子さんの死が私たちの生き方を絶えず問いかけてくるのです」。戦後に生きる私たちの使命とは-。慰霊の夏。いま一度考えたい。
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