本意ではないことをしなければならないのは、どんな立場の人にもある。本人の意志も尊重される時代になってはきたものの、我を通せば誰かにしわ寄せがいって気まずい。受けてもまた心労が重い▼寺で経理の仕事を任される和尚さん。毎日、出納に間違いがないよう金勘定に神経を削る。そんなある日、地域の会合に参加して会計役を託された。皆から集めたお金を数えて店に支払うと、その手元を見ていた店主がひと言ほめた。「金の数え方がうまいねぇ」▼世俗を離れ、欲を捨てるために日々精進している和尚さんにとっては「まったくもう最悪ですわ」。店主に悪気がないからさらにおかしくて落語のよう。笑い話としながらも悔しそうに膨れっ面をみせた。仕事を選べないつらさは全ての人に等しきとつくづく思う▼年度が始まり4カ月。仕事、職場に慣れた頃だろうか。少し余裕が生まれて周囲に目が向き、職場、仕事の内容に不条理や意味のなさを感じているかもしれない。ただそれはキャリアとは関係なく、おのおのの立場で毎日難しい気持ちとの折り合い方を探している▼労を重ねて見えてくることも多い。できない理由を考えあぐねるぐらいなら飛び込んだ方が実りがある。が、年配者の前のめりはお勧めしない。頭から転がって大けがをするのがオチだもの。「この環境でどう楽しく生きるか」という”前向きな諦め”の手もある。
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