最近の観光施策といえばまず「映え」をつくることが必須のようだ。観光マップにも「映えスポット」が掲載されている。「はえ」ではなく「ばえ」と読むのが現代の用法▼もともとはSNSのインスタグラムで人気を集める風景などが「インスタ映えする」と評価されるようになったのが始まりだと思われるが、「映え」の部分が「映える」と動詞化して使われるようにもなっている▼ただ、「はえる」という表現は光に照らされて輝く様子や、周囲と比べて引き立って見える様子を表す言葉だという辞書的な用法が染み付いている身には、「ばえる」と聞くたびに、「一体、何に対して『映え』ているのだろう」と違和感が拭えない▼例えば本紙で連載中の佐藤巌太郎作の時代小説「筆と槍」の第114回(6月30日付)には、「小田原城を囲む主役は秀吉。主役が映えるには、名脇役が必要だ」という一文がある。こういう使い方はしっくりくる▼「映える」写真をSNSに投稿して「いいね」をたくさんもらうことは新しい観光の楽しみの一つ。ただ、悪目立ちでもいいから注目を集めようという向きがSNSどころか自治体選挙でも見られる昨今。人気撮影スポットに観光客が集まり過ぎて地元住民が困惑する事例も報道されている。何に対して「映え」ているのか、目立って話題を集めればそれでいいのか。投稿ボタンを押す前に、少し考えたい。
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