どんなに子どもたちを喜ばせたことだろう。良書を通して健やかな心を伸ばしたことだろう。諏訪市が運営していた蓼科保養学園には、2022年度末に閉園するまで40年以上にわたり、毎月図書カード(図書券)が匿名で贈られ続けた▼学園では市内の小学5年生が親元を離れ、約3カ月間の共同生活を送った。規則正しい生活と自然の中での共有体験で心身をたくましくし、自立心を育んだ。生活には携帯電話もゲームもない。図書室は児童が好きな場所の一つ。図書券で購入する際は児童の要望も参考にした▼1979年頃から始まったとされる匿名の善意。差出人はいまも不明。千葉県内の消印が唯一の手掛かりだったが、市は相手の意向をくみ、進んで探すことはしなかった▼「閉園のニュースを知り寂しいです。冬の3カ月余。私の人生にとって貴重な経験でした」。閉園が迫った22年12月、図書カードに初めて手紙が添えられていた。1世紀の歴史を刻んだ学園。大病することなく定年まで勤めることができた「私」、91歳で元気な「母」。差出人は親子2代での卒園者だったのか。「健幸」に導いてくれた学園への感謝の思いが込められていた▼手紙には「こんな時代こそ蓼科保養学園が必要」とある。心身ともにたくましく「生きる力」を持つ子に。そんな願いを感じる。市は学園の成果を継承する。母娘の願いは新健康教育に引き継がれる。
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