2024年7月4日付

2024/07/04 06:00
八面観

知人宅を訪ねた時のこと。「猫が帰ってこないの」と寂しげに言われた。もう1週間になり、待つのは諦めたと。おそらくどこかで…、悪いことばかりが頭に浮かんでくるという。なんと言葉をかけていいのか分からずに、ただ黙って聞くことしかできなかった▼動物を飼った経験がないので、ペットと暮らす喜びや、別れの悲しみなどを実感として理解することができない。家族のような存在になるのであろうか。想像することしかできない▼しかし、身近な存在の大切と思う命との別れの悲しさは理解できる。これまでに、いくつもの別れを経験してきたので。しかし不思議なもので、すでに存在していない命であっても、今でも存在しているかのような感覚になることがある。突然の別れの時ほどそう感じている▼生きていること自体に価値がある。生きているだけで周りに何かを与えてくれる。命とはそういうものではないだろうか。そう思うと自分も含め、すべての命を大切にしなければいけないという気持ちになる▼「猫が帰ってきたの」。再び知人宅を訪ねた時うれしそうに言われた。1カ月ぶりに会えたいとしい命。こちらまでうれしくなった。「お帰りなさい」と心の中で言った瞬間、猫が足に絡みつくように懐いてきた。こちらの思いが通じたのだろうか。素直にかわいいと思った。向き合う命は鏡のようだ。自分の心を映し出してくれる。

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