天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり-で始まる福沢諭吉の「学問のすゝめ」。誰もが知る一節である。「言えり」とは「誰かが言った」という意味なので、諭吉自身の言葉でなく引用だったことになる▼典拠は「全ての人間は平等」といった趣旨のアメリカ独立宣言だという説もあるが、定かではない。学問のすゝめの初編が刊行されたのは、1872(明治5)年2月。廃刀令の発出がその4年後だから、武士階級を筆頭に身分制度が色濃く残っている時代だった▼そんな背景があったからこそ、「人間に上下はなく誰もが自由だ」と訴える言葉は大衆の心に響いたのだろう。初編は20万部超のベストセラーとなった。それから150年余。経済格差が取り沙汰される現代日本は、諭吉が思い描いた自由で平等な社会になったか▼インターネット上では「親ガチャ」なる言葉がはびこる。自ら選べない出自をカプセル玩具に見立て、裕福な家庭なら当たり、貧困ならはずれといった具合だ。成功も失敗も、全て周りの環境次第。生まれで人生が決まるという考えは身分制度そのものではないか▼きょうから新紙幣が発行される。40年間、1万円札の肖像を務めてきた諭吉は「自由とわがままは違う」とも説いた。努力をせず他人や環境のせいばかりにするのは「わがまま」にほかならない。旧紙幣となるなけなしの1万円を見つめ、自戒する。
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