誰もが気ぜわしくなる朝の通勤時間帯に、落ち着いた速度を保って脇からの車にも先を譲り、気を遣いながら行く車。進行方向からその車の主がどこの会社に行くのかが分かる。セイコーエプソンだ▼同社に近づくほど道行く車列は整然とする。それぞれが周辺の状況に注意し、危険を予測しながら運転しているのが見て取れる。地域のドライバーや歩行者に安心感を与える運転マナーも会社で定めた方針なのだろう。その徹底、浸透ぶりにいつもながら感嘆する▼諏訪では毎年、企業の新人を集めてものづくり道場が開かれる。そこで指導するエプソン社員の教えはあいさつ、身だしなみに始まって道具の置き方・使い方、さらには廊下の歩き方、手洗い時の配慮にまで及ぶ。安全に確かな製品を生む原点は人にあり、である▼教えている内容は社会生活の基本にも通じ、かつては家庭や学校、地域で常々学んだことばかり。昨今は教える側が「今の人には無理」「昔のやり方は古い」と諦めてしまう事ごとも多いが、基本とは、一時の声に動じてやすやす変わるものではないと示している▼生き方も働き方も多様化して「何でもあり」の時代こそ基の根っこが確かな本物だけが生き残れる。それは一日にして成らず、基本を守り、毎日、長年実践してやっと確となる。効率化と手抜きの違いを見極めて迎合せず、ぶれず志を貫徹する姿が一流の名を得る。
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