2024年6月13日付

2024/06/13 06:00
八面観

コピー用紙に殴り書きされた「一身上の都合」の文字。30年ほど前に勤めていた会社で後輩から辞表の提出を託された。後輩といってもたった1日の付き合い。入社初日もさることながら、直接顔を合わせることもなく私のロッカーに辞表が投げ込まれていたのには驚いた▼社会人生活の不安や配属先への不満があったのかもしれない。退職の自由を否定するつもりもない。ただ社員寮への引っ越しも手伝った先輩に対して、間接的に辞表を託すことしかできなかったのか。上司に経過を報告し、やるせない気持ちになった▼厚生労働省の調査だと、2020年3月に卒業した新卒者の就職後3年以内の離職率は大卒32.3%、高卒37.0%。近年は10人就職したら3人は離職する水準が続いているという。企業の人手不足が叫ばれる昨今、会社を辞めても次の仕事を見つけやすい環境が、若手の離職を助長しているのかもしれない▼こうした状況下で人気なのが退職代行サービス。本人に代わって会社に退職の意思を伝えてくれる。新卒者を含めた若手の利用も多いらしい。嫌な上司に会ったり、無駄な引き留めに付き合う必要がないのは確かに魅力だ▼「辞めるぐらい自分で言うべき」とは思うが、仕事の内容や人間関係によっては、自分から切り出せないケースもあるだろう。退職は次の一歩を踏み出すためのリセットボタン。ただ押し過ぎには要注意。

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