大学進学とともに手にした1人だけの空間。殺風景な借間が自由で満たされたようで気持ちが高揚したことを覚えている。新年度が始まり1カ月半ほど。新たに1人暮らしを始めた人も多いだろう。1人の生活には慣れただろうか▼人口が減る一方で、1人暮らし世帯が増えている。厚労省の国立社会保障・人口問題研究所によると、26年後の2050年には、全5261万世帯の半数近く、44.3%が1人暮らしになるという。ちなみに現時点の割合は、およそ3分の1だ▼かつて3世代同居が一般的だった世帯構成は、核家族どころか1人暮らしが標準となり、多人数世帯が例外的な社会になっていく。研究所は、1人暮らしが増える要因に未婚率の上昇を指摘する。世代間だけでなく、人と人とのつながりが希薄になっていくと心配する声もあるそうだ▼ただ、多様な価値観が認められる社会になったとも考えられる。焼き肉やカラオケ、キャンプなど「おひとり様ビジネス」も定着した。1人でも暮らしやすい社会になってきたことは、歓迎すべきだ。今後は高齢になっても安心して地域で生活し続けられる、支え合いなどの環境整備の推進が課題とされる▼―と理解はするが、きょうだいげんかをして親に叱られ、祖父母に慰められ、泣いて笑って―。サザエさんやちびまる子ちゃんの世界が遠い時代の思い出になってしまうとしたら、やはりさびしい。
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