スーパーの缶詰コーナーを通るたびに気になる商品がある。蜂の子だ。値段の高さだけではない。蜂の巣をとるのに悪戦苦闘した子どものころから「憧れの缶詰」であり続けている▼軒下に蜂の巣を見つけると、わくわくしてたまらなかった。棒でたたき落としたり、届かないときは石を投げつけたり。たまに怒り心頭の蜂に刺されることもある。こうして手に入れた蜂の子は誇らしい戦利品だ。フライパンで煎った味は何ともおいしく、忘れられない▼伊那市の天竜川で開かれたザザムシ漁の見学会に足を運び、つくだ煮をいただいた。ザザムシはトビケラやヘビトンボなどの幼虫。これまでは姿形の印象が強すぎて食べる気になれなかった。でも、試しに口に入れると思った以上に美味で、二つ、三つとつまんでいた。生まれて初めての味は、どこか蜂の子に似ていた▼川底の石をひっくり返し、川虫を流れに乗せて下流に置いた四つ手網で捕まえる。厳冬期の漁は2月末まで行われる。関係者によると、独特の漁法が残ったのは虫の売買が成り立つ環境があったからだという。漁をする人は高齢化もあって減少し10人程度。そんな背景も頭に入れて味わってみたい▼酒のさかなにうってつけ。伊那谷を放浪した俳人の井上井月も味わっただろうか。ザザムシをつまみながら、ちびりちびりと酒を飲み「千両、千両」と言って上機嫌の姿を思い浮かべてみる。
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