2024年12月5日付

2024/12/05 08:00
八面観

近所のおばあさんから土のついた大根をもらった。区の届け物をしたら、半ば強引に物置小屋に連れていかれ、「もってけ」と大きな袋を手渡された。ふぞろいだがどれも肉厚。30本はあっただろうか。ありがたいと思いながら、食べきれず腐らせることへの不安が頭をよぎる。さっそく知人や同僚に配り、5本だけ手元に残した▼おばあさんは一人暮らし。隣町に息子さんが住んでいて、先日も仕事の道具を取りに来て、玄関先を掃き清めていったという。損得抜きで人に尽くすことが「うれしい」と語るおばあさんは84歳。足が悪いので呼び鈴を鳴らして姿を見るまでに、いつも3分ほど待たなければいけない▼近所の友人たちが毎日のように声を掛けてくれることを「ありがてえ」と話す。取材でお世話になった息子さんの近況を報告すると、決まって「そうかや」と目を細める▼歩いて畑に通い、土を耕し、種をまき、水をやり、大地をなで回すように草を取ったおばあさんの1年を思う。30本の大根は、信州の厳しい冬を共に乗り越える隣人への深い愛情ではなかったか▼区の役員を3年間務めさせていただいた。仕事や家庭生活との両立で思い悩む日々もあったが、やってよかったと思う。自分のためだけに生きるむなしさを知ることができたからだ。土つきの大根を見ていると苦労が報われた気もする。きょう12月5日は国際ボランティアデー。

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