2024年11月9日付

2024/11/09 07:59
八面観

若い頃に抱いた印象は「おやじくさい」「悪酔いする」―。学生気分の抜けない悪ノリや団体での懇親会などで、行儀悪く飲んだためだろう。居酒屋でご常連さんから説明を受けながら丁寧に味わい、日本酒の認識を改めた▼地酒や各地の酒も楽しむようになったが、考えてみると酒造りをよく知らない。その土地の自然や風習、伝統と密接に関わり、続けられている日本の酒造りは、貴重な地域の文化であり資源。自分だけでなく広く知ってほしいと、4年前に酒造りの連載を企画した▼「信濃鶴」を醸す駒ケ根市の長生社の協力で、酒米の稲刈りから初しぼり、寒仕込み、袋つり、初呑み切りなど、古くから伝わる主な工程を1年かけて見させていただいた。文章は杜氏も務める北原岳志社長。親しみやすく分かりやすい説明が好評だった▼日本の「伝統的酒造り」が、ユネスコ無形文化遺産に登録勧告された。12月にも正式決定される見通しで、500年以上続く日本文化が世界に認められる▼酒蔵を拝見し、緻密で繊細な作業に感嘆した。その技術を、「長大な月日を費やした我々先祖の試行錯誤が生んだ、日本の稲作農耕文化の粋」と表現する北原さん。登録勧告の知らせに、軽快な語り口の一方で、酒を見詰める真っすぐな目を思い出した。杜氏など酒造りに携わる人の思いに改めて触れる機会になればと期待する。今夜は日本酒を選んでみようか。

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