「教育」と訳すよう教えられた「Education(エデュケイション)」は「大誤訳」だったと元東京工業大学学長の川上正光氏が著書「独創の精神」(1978年、共立出版)の中で指摘していた。適語として示したのは「教育」ではなく「啓育」だった▼川上氏によれば「教育」は「Teaching(ティーチング)」に該当し、教えることで才能を引き出す意味の「Educate(エデュケイト)とは完全に逆の操作という。「教育」で育まれるのは類題を早く上品に解く力であり「新しい問題を自ら見つけ解く力の養成が行われていない」と指摘していた。46年も前の問題提起だ▼AI(人工知能)をはじめとする科学技術の発展はすさまじい。野村総合研究所が2015年に発表したレポートによれば、日本国内の601種類の職業のうち49%が人工知能やロボットで代替可能になると報告していたが、低価格帯のレストランチェーンでロボットが配膳する光景はすでに珍しくない▼人材不足の課題がAI、ロボットによって克服されたとき、人間に求められるのは川上氏が指摘した「問題を自ら見つけ解く力」である▼言葉が持つ不思議な力が働いて言葉通りの事象をもたらすことを「言霊」と表現してきた日本人。その精神性を生かしながら、未来に役立つ力を育むため、一人一人の可能性を引き出す「啓育」の実践が求められている。
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