水面からの照り返しがまぶしくて涙が止まらない。サングラスを掛ければ良かったと思いつつトラクターで往復する。米作りで大切な代かきをようやく終えた。週末には家族総出の田植えを控えている▼見渡すと一面に田んぼが広がっている。自ら耕作している地権者はずいぶん減った。大半は農業法人などに頼んで農地を維持しているのが実情だ。農機具や肥料・農薬代、手間などを考えたら採算は取れない。農業をやめる理由でよく耳にする「米を買った方が安い」は、その通りかもしれない▼数年前に受け継いだ田んぼで片手間の米作り。機械の操作から水の管理、雑草対策まで毎年、ノートを見返しての作業は進歩がない。取材で出会ったベテラン農家が「農業は毎年が1年生だから」と話していたのを思い出す。こちらの「1年生」の意味はもっと奥深い。努力をしても自然の前では無力と気付かされるのも農業ならでは。そうした自然への謙虚さが込められている▼食べ物がないことがどれだけつらいか。戦中・戦後の食糧難の話を茶の間で繰り返し聞かされてきた。おなかをすかせた疎開児童が体を丸めて道端にうずくまっていた、と語る父の口調は哀愁を帯び、心に残っている▼”ながら農業”の身で、食料安全保障に一肌脱ぐのだと声を張り上げるつもりはない。ただ、緊迫さを増す国際情勢を思うと、やめる踏ん切りもつけられないでいる。
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