2025年4月11日付

2025/04/11 08:00
八面観

「散る桜残る桜も散る桜」。広く知られた一句を引いたあいさつを残し、先輩が職場を去った。皆さんもやがて退職の日が来る。長い、短いはあれど元気で働けることに感謝し、その日まで頑張ってほしい-。そんな激励に気を引き締めた▼花の命は短い。ぱっと咲いて、ぱっと散る。ようやく咲いたと喜んだのもつかの間、風雨で一瞬に散ってしまう。身勝手な考えだけれど、咲き始めると穏やかな天気が続いてほしいと願わずにいられない。戦時中、散り際の“潔さ”は大いに悪用された▼「『若桜』だの『桜吹雪』だのともてはやされて散華した若者たちを思い、桜美学が戦死肯定に使われてきたことへの深い怨恨がうづく」と、随筆家岡部伊都子さんの作品「桜の木は、知らないことだ」にある。戦後そう遠くない間は嫌われ者にもなった。桜にすれば迷惑な話だろう▼戦争といえば、戦中や戦後の食糧難では、あの高遠城址公園(伊那市)でも畑にするため桜が一部伐採されたという。その後、観光客が押し寄せるようになると史跡保存の面で専門家から伐採を求める厳しい意見も出たらしい。人間に翻弄される桜。翻って愛着の深い花でもある▼桜前線が信州を北上中だ。きのうの高遠城址公園は八分咲き、きょうにも満開になりそうだ。名所はもとより、人知れず咲く桜もいい。平和な世の中に感謝しつつ、素直に花の美しさをめでることにしよう。

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