人は古来から「黄金」に魅せられてきた。身を飾り、権力を示し、世界を動かす価値を持つ。”有事の金”と呼ばれて情勢が不安定な局面になると需要が高まる。今、金の価格は過去50年で最高値だ▼田中貴金属工業が公表する価格が昨秋、初めて1グラム1万円の大台に乗り、話題になった。東日本大震災や新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアの侵攻など大事の発生ごとに価格は跳ね、この20年は右肩上がり。金箔が揺らめく酒を気軽に口にできた頃が夢のよう▼宗教や伝統工芸、装飾具など美的な使途に加えて現代は工業製品にも多用され、世界の需要は一層増すとの見方がある。片や資源は枯渇に向かっている。山を1トン削って採れる金は数グラム。「一獲千金」を争った時代から、再利用に人智を絞るべきへと時は変わった▼風がぬくみ、里も山もピンク色に染まる季節を迎えた。桜もまた人の心を捉え、躍らせる魅力がある。環境も世界も激しく変動する中でいつも通りに咲く無事に安堵もする。世代を超えて木や環境の保護に力を尽くす人の苦労があっての開花だ。その努力は値千金▼人は金を奪い合って血を流すが、自然の命をも慈しむ心ももつ。来し方、人の生きざまを見つめてきた桜花に今はどう映っているだろう。花枝を見上げる笑顔の向こうには災害や戦禍に涙する姿もある。その暮らしが彩りを取り戻す日を願いながら枝を仰いでいる。
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