労務セミナーの講師の話に気分がなえた。「今の若者は入社2~3年で辞めるのが当たり前と思って採用してください」と。「今どきの若者」と、ひとくくりにはできないけれど、総じて定年まで一つの会社に勤める考えは薄いらしい▼きょうは年度替わりで、多くの企業で入社式が行われる。急速な人口減少社会にあって、新入社員は「金の卵」。応募者が殺到する企業ならいざ知らず、たいていは知恵を絞って確保したはずだ。長く勤めてもらいたいのが本心だろう▼常識を打ち破る「新人類」世代と呼ばれて入社した40年前。当時も周囲は数年で次々と会社を去った。とは言え、終身雇用の常識にあえて挑戦したわけではない。業界に活気があり、引き抜きが多かった。そんな時期を経て長く勤められたのは実力や転職の勇気のなさもあるけれど、同僚の存在が欠かせない▼大切にしている1本のネクタイがある。紺と赤のしま模様。駆け出しの頃に先輩からいきなり渡された。「ほれ、やるわ」と、ひと言だけ。仕事で落ち込んでいた後輩を励まそうと思ったに違いない。その気持ちが心に深く染み、ここぞという時に締めてきた▼「すべての人を師とせられよ」。作家の島崎藤村は、弟子入りを請う青年に、こう答えた。職場も社会も尊敬できる人ばかりではない。「反面教師」の言葉もある。だからこそ多くの人と交わり、学ぶ姿勢は持ち続けたい。
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