2025年4月4日付

2025/04/04 08:00
八面観

マスコットキャラクターの着ぐるみはいつでも場の人気者だ。子どもたちは目を輝かせて集まり、人形には縁も関心もなさそうな大人でも、キャラクターに手を振られたらつい応えて笑みを誘われる▼けれど”中の人”はなかなかの重労働。親しみが過ぎてたたく乱暴者もいれば、しがみついて離れない人もいるが反撃はご法度、愛嬌を振りまき続け、動きは全身を使い大げさなぐらいでやっとさまになる。夏場は過酷で、かつて務めた時には熱で気が薄れかけた▼その仕事を東京ヤクルトスワローズのスタッフは一人で31年も続けていたという。球団マスコットのつば九郎を担当し、今年2月に急逝した。つば九郎は自由奔放に振る舞い、笑いを誘うコメントを筆談したり、手も足も出す黒い一面を見せたりして人気を集めた▼「マスコットはかわいい」の既成概念を覆すのは勇気が要っただろう。球団を印象付ける顔だもの。性格づくり、一挙手一投足が試行錯誤だったのでは、と身を削る労を拝察する。ファンのみならず心をつかんで球史に残る評価を得ても、かの担当は黒子に徹した▼着ぐるみの中は真っ暗で自分の荒い呼吸だけが響く。その孤独に身を置き、つば九郎が目指す「えみふる(笑顔が満ちる)」ために力を尽くしてかけがえないの存在になった。希望する道でなくても、光が当たらずとも「誰かのために」今日を頑張る勇気をくれる。

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