次のページをめくるのがもったいない。そんな気持ちで本を読んだのはいつ以来だろうか。物語の展開に心を躍らせて気がはやり、けれど終わりが惜しくて一字一句を熟読した幼い日の記憶をたどる▼茅野市の今井書店店主、髙村志保さんの著書「絵本のなかへ帰る」は、例えるならば「手作りチョコレート」か。31冊の絵本を主題に自身の幼少の思い出や日常をつづったエッセーで、丁寧に練り込んだ言葉は純で澄んでいて甘く、ほろ苦く、残る香りが心地いい▼読み手は子どもの頃を思い出す。宝物だとしまい込んで入れ物ごと存在を忘れていた石ころに光が当たったような愛しさが湧いてくる。髙村さんは物心がつく前から、身の回りのことや自分の心とじっと向き合って思考を養ったのだろう。その核に本、物語がある▼学校教育で新聞活用を進める教職員の会合で、「今の子どもたちは長文を読むのが苦手」という指摘があった。本はもちろん、小欄ほどの長さの文章は既に論外だとか。インターネット上にあふれる情報も画面を動かさなければ読み切れない長さは「無理」となる▼髙村さんは「物語の読める子どもに育って」と願う。怖さや悲しさを味わい、最後は知恵と勇気で勝って家に帰る。そんな幸せな結末の物語が心に根付いた子どもはきっと強い-とも記す。「本とは誰もに等しく注ぐ愛」。受け入れるお皿を育むのが物語だという。
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