八ケ岳山麓や伊那谷の農村地帯ではこの時期、水路の氷割りが欠かせない。水しぶきが凍ってできる「しぶき氷」が成長するためで、放置すると水路を覆い、流れをせき止める。あふれ出した水で道路が凍結する。日差しではがれ落ちた氷を大量の水が押し流し、下流の村で騒動になる、なんてことになりかねない▼筆者が暮らす茅野市穴山では消防団の若者たちがその任に当たっている。辰野町川島では地域の男性たちがじょれんで氷をすくい上げていた。南信地方は雪が少ないから、冬枯れの土手に白い花が咲いたように、水路沿いに氷が並んでいるのが見える▼水路は田んぼに水を引くためのもので、多くは江戸時代に開削され、地域に暮らす人々によって守られてきた。集落に恵みをもたらす「命の水」を巡って他の村と争うことさえあった。土に根差し、自然の力に畏敬の念を抱きながら、隣人と協力して生きる。持続可能な社会は、じょれんを握る彼らの手に支えられている▼箕輪町は来年度、町内の自宅から通勤する25歳未満の若者に3年間、年2万円を交付する応援金を創設する。議会で承認されれば、箕輪で生まれ育ち、高校を卒業して地場産業や農地で汗を流している若者たちも対象になる▼都会から子育て世代を呼び込むだけがまちづくりではないだろう。信州人として大切にしてきた暮らしを見詰め直し、何を守るかが問われている。
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