2025年3月16日

2025/03/16 08:00
八面観

看護専門学校の卒業式で聞いた「仰げば尊し」。別れの季節の定番曲だったのも今は昔。卒業式の取材で聞くことも減った。そのせいか、懐かしさの中にどこか新鮮さも感じた。長く歌い継がれてほしい一曲▼ある小学校で話題にすると「仰げば尊し」は長らく歌っていないという。多くの選択肢から教員と子どもたちが式にふさわしい歌を選ぶ。その過程もまた思い出の一ページ▼「仰げば尊し」が歌われなくなった一因に歌詞の価値観が現代に合わなくなったためとの指摘を見つけた。恩師への過度な賛美や立身出世を強く求める歌詞にそんな捉え方もあるのかと感じたが、明治期(1884年)に発表された歴史を思えば、当時の学校教育の考え方が垣間見えて興味深い▼2011年に一橋大学名誉教授の櫻井雅人さんがそれまで作者不明とされてきた「仰げば尊し」の原曲を米国で1871年に出版された音楽教材に見つけた。櫻井さんら3人の共著「仰げば尊し 幻の原曲発見と『小学唱歌集』全軌跡」に原詩がある。級友や教室との別れが歌われ、時代を越える普遍的な歌詞。櫻井さんは「歌いかける対象および内容を比較すると最も違いが大きいのはそれぞれの一番である」と記した▼子どもに恩師への賛美や立身出世を求めようと、国家が原詩を大きく変えたことが後の世に卒業式で歌われなくなった遠因だとすれば、なんとも皮肉な話である。

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