2025年3月19日付

2025/03/19 08:00
八面観

近所でいつも見かける子連れのお母さんに「子育てお疲れ様です。場所が空いている時は遠慮なく遊んで」と声を掛けると驚いた顔。「子どもの声が響くとうれしい」と添えると大粒の涙がこぼれた▼「泣き声、騒ぐ声でご迷惑をかけていませんか?いつも気がかりで」、「そんな風に言ってもらえるだけで安心しました」とぬれた目を拭いながらそっと笑う。私たち世間は、この若いお母さんら懸命な子育て世代をこれほど追い詰めていたのかと思い知らされた▼「子どもは外で伸び伸び遊ぶものだ」と昔ながらの一般論を語る口で、「子どもの声がうるさい。ここで遊ばせるな」「しつけがなっていない」と批判する。そんな身勝手な矛盾のはざまで親子は惑いおびえて、安心安全な狭い世界にこもらざるを得ないのだろう▼いつの時代も年配者は「昔は良かった。今の世の中は物騒で世知辛い」というせりふが口を突く。ただし、そんな世の中にしたのは当の本人たちだ。自分がこれまで大人の背に見てきた良き心や善行をきちんと実践して、次代へ伝える努力をしただろうかと省みる▼子どもにとって小石を拾うことも、駆けて転ぶことも、大声で泣くことも一つ一つが大切な経験。将来の社会を担ってくれる世代が減ることを案じる前に、まずは子どもたちが地域の大人の顔色と安心をうかがいながら暮らす必要のない社会にしなくては、と思う。

続きを読む

購読残数: / 本

この記事は登録会員限定です
この記事は有料購読者限定記事です。
別途お申し込みをお勧めします。

日付で探す

<前次>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031