どこかの河原で拾ってきたのだろう。小石が詰まった空き缶。飲み口からひょろりと伸びた植物の芽。そこから思いを巡らせて環境や命に絡めた記事を書く。そんな独特の視点は健在だった▼小林キユウさん(56)。茅野市出身の写真家だ。本紙で9月から毎月1回「水面ゼロセンチの世界を巡る」を連載する。弊社で新聞記者として働き、筆者も机を並べた。週休2日制と無縁の30年前。本人はひょうひょうとしていてカメラを手にインドに行ったり、上京した若者を追ったりしていた。今は有名ホテルの料理写真の撮影など幅広く活躍されている▼連載は「水」をテーマにユニークな写真と味わい深い文章で構成する。先日、片倉館(諏訪市)の千人風呂での撮影に同行した。特殊なカメラを使い、水面にレンズの中心を合わせてシャッターを切った。9日付掲載の写真は、浴槽の底の玉砂利と昭和の趣がある室内の双方が写し込まれ、見たことのない表現に心が揺さぶられた▼かつて先輩の写真家から「ライスワークだけでなく、ライフワークも大切に」と言われたそうだ。暮らしのための「ライス」に対し「ライフ」は生きがいか。連載は、古里のお役に立てば、との思いから始まった▼水中の風景と水上の風景。それを別々ではなく一緒に眺めたときに見えてくる全く違った風景の面白さ。若き日から育まれた「複眼的思考」のなせる業かもしれない。
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