いずれ来る。その危機感が高まった瞬間だったけれど、住民の受け止めは想像していたよりも穏やかだった。8月半ばに発信された南海トラフ地震臨時情報のことだ。この辺りも大被害が予想される▼諏訪盆地は「巨大なプリン」と諏訪湖博物館の研究員、小口徹さんは例えた。80年前の東南海地震では諏訪盆地の建物の90%が全半壊。液状になった地面が割れてすさまじい被害が出たとする。近年、建物の強度は向上したが、根本たる地盤の緩さに変わりはない▼能登で水道の復旧支援にあたった渋崎建設の守矢清さんは、マンホールが地上に突き出た液状化の光景に諏訪の被災を重ねた。接続する管は上下水とも断絶。全市被害なら「復旧できるか分からない」と身震いする。備蓄は3日分という基本すら見直す必要がある▼日ごろは揺れを感じにくい南諏や上伊那でも油断はできない。暮らしの間近を断層が走る。山津波の危険も迫り、水道や道路が寸断されたら孤立する。とはいえ、「不安だが何をどう備えたら有効か分からない」と店先で聞いた主婦の声が市井大方の本音ではある▼備蓄を報道があおるせいで品不足に陥った、と商業者からは恨みごとも聞かれるが、「ちょっと待った」と申し開きたい。災害が起きてからでは手遅れ。慌てた駆け込みが集中しても間に合ううちに備えに走るべきなのだ。それも報道の大事な役目と自負している。
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