1枚の古い写真がある。学生服を着た少年たちが金管楽器を手にレンズに視線を送っている。彼らは統合前の旧高遠中学校(現高遠中)のブラスバンド部で、発足間もない1959(昭和34)年に撮影された。初代部長だった黒河内靖さん(80)=伊那市高遠町本町=が先ごろ自宅で”再発見”して、今も大切に保管している。発足から65年超。現在は吹奏楽部が催しで演奏するなど地域貢献を続け、脈々と伝統を受け継いでいる。
■1957年発足 初期指導厳しく
黒河内さんによると、ブラスバンド部の発足は57年。全国的に教育現場への楽器の導入が進んでいた頃だったという。同部は1、2年生の14人で始まり、メンバーには後に天文学者・東北大学名誉教授になる関宗蔵博士、現在は高遠の伝統芸能「高遠囃子」を受け継ぐ桜奏会の会長を務める北条良三さんなどがいた。
初期の指導は旧海軍の軍楽隊出身者が当たったという。非常に厳しい内容だったが、黒河内さんは「教える側も教わる側も互いに必死だった」と振り返る。
■印象深い三義小芝平分校落成式
黒河内さんにとって印象深い思い出が、58年10月に旧高遠町立三義小学校芝平分校の落成式で演奏したことだ。その頃は高遠や長谷の地域で音楽団体は希少な存在で、大勢の住民が出迎えてくれるほど注目を集めたという。「中学生がアーティストとして脚光を浴び、天にも昇る気持ちだった」と語る。
長野日報社の連載「寂れゆく山里 我が生い立ちし村の変容(筆者・北原由夫さん)」には演奏の様子について「澄んだ音色が会場いっぱいに響き渡った。(中略)さまざまな形の楽器から力強く、そして軽快に音楽が奏でられる。(中略)聴いたことも見たこともない演奏ぶり」(2009年2月14日付)とある。テレビの普及も十分でない時代、生の演奏が住民に新鮮で貴重だったことがうかがわれる。
■文化活動を担う一面があり期待
ブラスバンド部の発足から65年以上の年月を経て、故郷のため演奏活動に取り組む姿勢は現高遠中の吹奏楽部(孫の黒河内栄子部長、29人)に受け継がれている。高遠城下まつりやJA上伊那の催しで花を添えている。
顧問の花村純平教諭(29)は「地域の文化活動を担う一面がある。子どもの披露の場として続き、聴いている人の記憶にも残ってほしい」と話していた。
黒河内さんは「楽器を奏でることができるのは素晴らしいことであり、自分が弾く喜びもある。続けてほしい」と期待していた。
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