中川村伝統の人形浄瑠璃を継承する「中川人形保存会」は8日、太平洋戦争中に同村へ学童疎開していた東京都世田谷区の二子玉川小学校で人形芝居を初めて披露する。終戦時に疎開のお礼にと、同小の保護者から贈られた人形も持参。苦難に耐えた戦争の歴史を風化させることなく次代につなげようと「里帰り公演」と銘打った。保存会員は「さらに交流を深める機会になれば」と期待する。
戦火を逃れて1945年に二子玉川小(当時は二子玉川国民学校)の児童は、中川西小(当時は片桐国民学校)に疎開。終戦時に二子玉川の保護者が、人形7体を人形芝居の伝統があった村側に寄贈した。その後62年を最後に半世紀にわたり人形浄瑠璃は途絶えたが、2013年に二子玉川側を招待して公演を行って再興を果たした。
現在も村で行う定期公演には毎年招いているが、贈られた人形が二子玉川へ”里帰り”するのも今回が初めて。保存会の下平達朗会長(75)は「戦後の疲弊した時代にあって託された人形。これによって両地域がつながり、人と人との絆もできた」と話す。
里帰り公演当日は保存会員12人が上京。「傾城阿波の鳴門 巡礼歌の段」を同校児童や保護者ら約300人の前で披露する。現在は村歴史民俗資料館で保存収蔵される二子玉川らか寄贈された人形7体のうち、今回は名人形師「天狗久」が手掛けた「老け女形」の1体が里帰りし、実際に動かして人形の遣い方などの解説に用いる。
公演には当時疎開していた二子玉川の女性も訪れる予定で、同じく片桐国民学校の高学年だった保存会相談役の大場茂明さんも足を運ぶ。
戦後80年も迫り、当時を知る人が少なくなる中で、保存会事務局の齋藤勝亮さん(64)は「戦時下の小学校同士の交流で始まった縁。機も熟して、里帰り公演がようやく実現する」と声を弾ませた。
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