2023年度の熊による人身被害者数が、統計のある06年度以降最多の198件、219人となったことを受け、環境省は今年4月、熊を「指定管理鳥獣」に追加した。これにより、都道府県などは国の交付金を受けて熊の捕獲が可能になる。県は「人と熊との緊張感ある共存関係の再構築」を目指し、対策に取り組む方針だ。
■堅果凶作だと秋に出没増加
県鳥獣対策係によると、昨年度の県内における里地でのツキノワグマの目撃件数は1406件で、人身被害は11件、死者1人、けが人11人。熊は食物が不足する初夏から行動圏が広がり、堅果(ドングリ)類が凶作な年には冬眠前の秋に里地への出没が増加するという。
■上伊は昨年度人身被害2件
昨年度、上伊那地域では目撃36件、人身被害2件、諏訪地域では目撃17件で人身被害はなかった。上伊那地域での人身被害はいずれも昨年6月24日に発生。辰野町でくくりわなの見回り中だった猟友会員の70代男性2人が、わなにかかった熊に襲われ、宮田村では登山中の50代男性が出合い頭に右腕を引っかかれていずれも中軽傷を負った。
■諏訪地域では目撃情報数件
諏訪地域では昨年度、熊による人身被害はなかったものの、岡谷市や茅野市、原村などでは目撃情報が寄せられている。各市町村ではホームページなどを通じて住民に注意を呼び掛けている。
このうち岡谷市では4月10日、同市湊の中央道諏訪湖サービスエリア上り線近くでツキノワグマが目撃された。市職員が見回り、周辺の住民に話を聞いたが、熊の姿を確認できなかった。近くで「森林(もり)の里親」契約を結んでいる京セラ長野岡谷工場は同月20日に作業を予定していたが、安全を考慮して中止とした。
市農林水産課によると市内では2年前にもツキノワグマの目撃情報があったが、近年、実際の確認に至った例はない。市では獣害について、インターネット上の地図に鳥獣の目撃情報を投稿するアプリを公開するなど、市鳥獣被害防止計画に基づいて対応している。
県は23年11月~24年3月に自治体関係者と有識者らでつくる「県ツキノワグマ対策あり方検討会」を全4回開催し、熊の管理や出没時の対応について協議した。同検討会からの提言を受けて対策の方向性をまとめた。
対策案では、堅果類の豊凶調査による出没予測と生息状況のモニタリング強化、人と熊とのすみ分けの徹底に向けたゾーニング(地域区分)管理の導入、シカやイノシシ用のわなに熊がかかる「錯誤捕獲」の防止といった取り組みを明示。今年度、第5期ツキノワグマ保護管理(2022~27年)を見直し、目撃と人身被害の増加や大量出没が予測された場合の「ツキノワグマ出没警報・注意報」などを導入する予定だという。
■方向転換なく被害対策推進
同係は「熊の指定管理鳥獣への追加による県の方向転換はなく、引き続き被害対策を進める」とした上で、国に対しては「人の生活圏への出没防止やゾーニング管理、干渉帯整備、地域づくりなど幅広い対策への支援を期待する」とした。
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