伊那市下新田の鈴木猛さん(86)が、夫婦や家族の歩みを記録した約300枚の写真を寝室の壁一面に飾った。思い出が詰まった写真に囲まれていると、人生を追体験し、5年前に77歳で亡くなった妻輝子さんと会話を交わすこともできるという。スマートフォンの普及で写真撮影が手軽になった半面、膨大な枚数が記憶媒体(メモリー)に保存されたままになっている。鈴木さんは「写真は目の前にあってこそ生きる力になる。保存方法を考えるきっかけになれば」と語り、友人を自宅に招いて写真展示の魅力を伝えている。
鈴木さんは水戸市出身。信州大学繊維学部を卒業してオリンパスに入社し、伊那工場(伊那市)で高精度顕微鏡の製造に携わった。軟式テニスで知り合った輝子さんと結婚し、35歳の時に家を建てた。夫婦の寝室だった八畳間、書斎を兼ねる「鈴亭」に写真は展示されている。
端緒は輝子さんの死後、2019年から始まった次男の大輔さん家族との同居だった。50冊のアルバムを捨てようと考えた時、場所を取らないデータ保存を大輔さんから提案された。3カ月かけて8000枚の写真をパソコンに保存した後、捨てようと手に取った写真の中に「思い出がいっぱい詰まっている」ことに気が付いた。
写真には通し番号を付け、一言を添えて年代別やテーマ別に掲示した。「輝子さんの写真は全て笑顔であり、この笑顔こそ輝子さんの人生を表現している」と鈴木さん。最高傑作には金色シールを、面白く楽しい写真には銀色シールを貼った。撮影当時の様子や鈴亭の展示内容、両親と輝子さん、子どもや友人への思い、人生訓をつづった冊子「猛・輝子
人生集大成の記録」もまとめた。
展示から1年で20組53人が訪れた。ともに生きた友人に見学してもらい、1~2時間話すのが恒例になっている。鈴木さんは「写真を表に出せば、はつらつで元気いっぱいだったその時、その場所に入っていける。輝子さんはいつもここにいて会話ができる。人生を二度楽しんでいるよう。新しい自分史の形式ですね」と話している。
孫が通う大学の門前で写真を撮るのが今の楽しみだ。これからの写真は天井に飾るという。
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