昭和30年代の終わりごろ、「あゝ上野駅」という歌謡曲が大ヒットした。集団で上京し、就職した若者たちが故郷の父母への孝行を胸に誓って仕事のつらさを振り切る歌詞が、同世代の共感を呼んだ▼経済成長期前の地方には仕事が少なく、子どもは貧しい家計を支えるために小中学校や高校を卒業するや地元を離れ、都会の企業や店舗に住み込んで働く人も多かった。初めての仕事に必死、雇い主に叱られるのも常の毎日、給金はほぼ全て郷里に送ったとも聞く▼今の若者はどんな思いなのだろう。円安で海外に職を求める人が増えている。かつての日本の姿が重なったが、高収入を狙うつもりが言葉の壁で職に就けない、違法売春で逮捕されるなどの報も届く。彼らの郷里ではいずこも人手不足が深刻なのに、と思いは複雑▼富士見の学校で庭木の手入れをする五味勝郎さん(81)は、学生にお礼の声を掛けられて感激した。「大人だってよう言えんのによくまあ」。「お陰でぱっと元気になって、銭をもらわなくてもこの子たちのために働きたいと思ったさ。仕事はそういうもんだえ」▼都会で得た技能を持ち帰って起業したり、財を寄付したりして故郷の発展に心を寄せる人もいる。地域や誰かのために労する喜びの源は、子どもの頃の体験や親の教えにあるそうだ。郷里や家族への思いも深まる年末年始、自分のルーツを感じる時間になるといい。
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