たわわな柿の実りにようやく秋を実感する。わが家も収穫したてをいただき、家族で夜なべに励んだ。山と積まれた柿の皮をひたすらむいて軒下につるすと、冬ごもりの準備の風情が漂って心も和む▼皮むき作業は肩凝り覚悟のひと仕事ながら、この1個をもぐのはもっと大変だったろう。柿の木は折れやすい。脚立の上でひと枝切るごとに足元を探りつつの収穫だ。取った後の始末にも工夫が要る。つるしやすく枝をT字形に切り整えるひと手間がかかっている▼こんな風だから年を取って収穫しきれなくなる事情にもうなずける。だが、残せば落果で庭が汚れ、里山に近ければ農作物の天敵である獣を誘ってしまう。柿の実りは貴重な財産だけれど毎年頭を痛める所有者も少なくなかろう。そこへ地域からの助っ人は心強い▼富士見高の生徒は柿をもぐ奉仕活動を復活して3年目。干したりさわしたりする加工も体験した。諏訪市内では市社協が、干し柿作りを利用者にさせてあげたい福祉施設と収穫困難な木の所有者をつないだ。下諏訪では国文化財の邸宅で柿干し風景を観光に生かす▼日本の伝統的な酒造りがユネスコの無形文化遺産に登録される見通しとなった。合理によらず手間を掛け、自然の力と恵みを取り込む日本人の考え方、暮らしぶりに光が当たる。干し柿だってその一つ。家々や地域で継承する努力が、海外の人も認める魅力を生む。
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