「歴史にもしもはない」と言われる。史実と異なる虚構の世界に学問上の価値はないのだろう。もしあの人が生きていたなら、異なる選択をしていたならどうなるだろう。あり得ない過去に思いを馳せるのは楽しい▼学生時代、架空戦記ものがブームとなり、小説や映画、ゲームなど数多くの創作物に触れた。織田信長が本能寺で死んでいなかったら、太平洋戦争の泥沼化を避けることができたなら。荒唐無稽な話と考えながらも、胸がすくような展開に引き込まれていった▼実存の武将や歴史のターニングポイントとなった事件。フィクションの作品をきっかけに関心を持ち、関連する歴史を学び直した経験もある。なぜそうなったのか。史実を掘り下げる上で「もしも」の視点は決して無駄ではないように感じる▼近年、戦国時代に日本を訪れたアフリカ人男性「弥助」が脚光を浴びている。織田信長に仕えたとされるものの記録が少なく謎多き人物。創作の素材として申し分ない存在だがフランスのゲーム会社が開発する弥助を主人公にしたゲームが物議を醸している▼日本を救う伝説の黒人侍。史実に基づく物語として海外に発信されている点が問題視されている。日本文化の認識不足、人種問題、多様性の押し付けといった要素も事態を複雑化させているようだ。ゲームは虚構の世界。政治的意図とは一線を画した「もしも」を楽しみたいものだ。
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